ここでは、FIREのベースとなる4%ルールの問題点と、その対策について紹介します。
4%ルールについては過去の記事をご覧ください。
問題点:リタイア直後の暴落
トリニティスタディにおける4%ルールでは、30年後に資産が残る可能性は(株式50%:債券50%の場合)95%という結果でした。逆の表現をすれば、資産が底を突く確率が『5%』存在するということです。
この要因として、シークエンス・オブ・リターン・リスク(SRR)と呼ばれるものがあります。リターンを得る順序次第で、資産残高が全く違ってくるリスクのことを指します。リタイア直後に暴落相場が訪れた場合、資産が大きく目減りしている中でも、生活費のために4%を引き出す必要があります。この取り崩しが大きく影響し、回復局面になっても資産を取り戻せなくなってしまうのです。
簡単な例を示しましょう。5年間で年間リターン+10%が4回、-20%が1回という相場が来たと仮定します。
・パターン1:+10% ⇒ +10% ⇒ +10% ⇒ +10% ⇒ -20%
・パターン2:-20% ⇒ +10% ⇒ +10% ⇒ +10% ⇒ +10%
どちらも5年間の平均リターンは4%/年です。投資額を1億円、年間取り崩し率を4%の400万円として比較すると、5年後にはパターン1の方が500万円以上資産が多い結果となります。これがSRRがもたらす結果です。初年度に-20%の暴落が訪れたパターン2の方が資産が減ってしまうのです。
年数 | パターン1 | パターン2 |
---|---|---|
投資元本 | 10,000万円 | 10,000万円 |
1年目 | 10,600万円 | 7,600万円 |
2年目 | 11,260万円 | 7,960万円 |
3年目 | 11,986万円 | 8,356万円 |
4年目 | 12,784万円 | 8,791万円 |
5年目 | 9,827万円 | 9,270万円 |
対策
この4%ルールの問題点については、書籍『FIRE 最強の早期リタイア術 ―最速でお金から自由になれる究極メソッド』でも紹介されています。この問題への対策として「現金クッション」と「利回りシールド」が取り上げられていますが、税制上対応しづらい側面もあります。
そのことも加味した上で、ここではSRRへの対策を3つご紹介します。
対策1:現金クッション
SRRへの対策はシンプルです。資産が目減りしているときに売らないことです。そこで必要となるのが、生活費を賄うための『現金』です。現金を活用すれば、生活費のために資産を売却する必要がありません。これが現金クッションの考え方です。
しかし、必要となる現金クッションは5年分の生活費とされています。年間生活費が400万円の場合は2000万円が必要になります。これは決して少なくない金額です。単純にこの金額を貯めようとすると、FIRE達成には想定よりはるかに時間を要します。
- 1929年 世界大恐慌・・・・15年
- 1972年 オイルショック・・4年
- 1987年 ブラックマンデー・2年
- 2000年 ITバブル崩壊・・・6年
- 2007年 世界金融危機・・・5年
対策2:利回りシールド
これを解決するのが利回りシールドの考え方です。
資産を投資信託やETFで保有している場合、分配金が支払われます。株式市場の動きに左右されて資産価値が下がったとしても、分配金利回りはほとんど変わりません。つまり、資産が暴落した際、分配金を生活費に充てることで、必要とする現金クッションの金額を下げることができます。
トリニティスタディの基となっている指数、S&P500と米国高格付け社債に連動するETF、VOOとLQDを例にとります。分配金利回りは、VOO:1.34%、LQD:2.61%とします。資産は株式50%:債券50%比率を想定して、全体の分配金利回りは約2.0%、資産残高を1億円とした場合の毎年の分配金は、200万円となります。
分配金を考慮した場合、必要となる現金クッションは1000万円まで減らすことができます。
(現金クッション400万円 – 分配金200万円) × 5年 = 1000万円
更に、資産を一時的に高利回りの資産に置き換えることで、現金クッションを減らすことができます。これが利回りシールドです。
資産の半分を高配当ETFに置き換えた場合を考えます。VOO、LQDの半分をそれぞれ高配当ETFのSPYD、HYGに置き換え、分配利回りをSPYD:5.88%、HYG:4.99%とした場合、資産全体の分配利回りは3.7%(=(1.34%+2.61%+5.88%+4.99%)/4)、分配金は370万円となります。必要となる現金クッションは、150万円まで減らすことができるのです。
(現金クッション400万円 – 分配金370万円) × 5年 = 150万円
利回りシールドの考え方は非常に魅力的ですが、見逃してはいけないのが税金です。資産を高配当ETFに置き換える際に、日本では利益に対して20.315%の税金がかかります(2022年4月現在)。
長期の資産運用でFIREを達成した後であれば、元本に対して利益の比率が多いでしょう。この状態で資産を売却することは、税金面でのデメリットが大きいことは間違いありません。
このことを考慮し、高配当の資産をFIRE達成前からポートフォリオの一部に入れておくことが理想です。ただし、分配金に関しては毎回税金が課されるため投資効率は落ちます。そのため、ポートフォリオへの組み入れは必要最低限に留めておくのが良いでしょう。
対策3:定率取り崩し
4%ルールでは、資産の取り崩し方法は『定額取り崩し』を前提として考えられています。FIRE達成時の資産が1億円の場合、年間取り崩し額は4%の400万円固定(金額固定)という考え方です。
しかし、資産が目減りしている状態で400万円を取り崩すのは賢明ではありません。暴落しているときは尚更です。30%の大暴落が発生し、資産7000万円まで下落した状態で400万円を取り崩すと、取り崩し率は5.7%になります。
一方『定率取り崩し』とは、取り崩し率を4%固定とし、取り崩し額はその時の資産状況に応じて毎年変動させます。資産7000万円まで下落した際は、その4%の350万円の取り崩しとなります。これにより、資産の減少を抑える効果があります。
資産が、FIRE達成時の金額(1億円)を越えた時は定額(400万円)取り崩し、下回った場合は定率(4%)以下の取り崩しとすることで、FIRE達成後の資産残高を効率的に維持することができます。
資産残高 | 生活費 |
---|---|
FIRE達成金額以上 | 資産から定額取り崩し |
FIRE達成金額未満 | 分配金+現金クッション +資産から定率(4%)以下の取り崩し |
まとめ
いかがだったでしょうか。今回は、書籍『FIRE 最強の早期リタイア術 ―最速でお金から自由になれる究極メソッド』で紹介されている、現金クッションと利回りシールドに加え、利回りシールドの改善と定率取り崩しについて紹介しました。
FIRE達成を目指す上で、目標資産に加えて現金も貯めておくのは非常に骨の折れる作業です。必要となる現金を少しでも減らすために、高配当資産からの分配金と、定率取り崩しの考え方も含めて、本当に必要となる現金を一度シミュレーションしてみることをお勧めします。
- 必要な現金クッションは5年分の生活費
- 高配当資産もポートフォリオに加えて、分配金で現金クッションを補填する
- FIRE達成後に資産が減少した際は、定率以下の取り崩しで現金クッションを補填する
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